第一幕

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 御剣(みつるぎ)家は古都京都の洛北の地に居を構える由緒正しき家だ。  明治維新で多くの公家が京の都を去った中、社家としての顔も持っていた御剣家は京都を離れることはしなかったという。  というか当時幕府と一旦はつながりを持ちながらあっさりと攘夷派に組した当時の朝廷に意見して江戸に入れなかったというのが世間の噂だ。    僕、御剣高天(みつるぎたかま)はその御剣家の次期当主の立場にある。 といってもまだ高校1年生。現当主の爺様もいたって健康で、おそらく僕がその立場に立つのはまだ先だろう。  幼いころの僕は、よく爺様のところで御剣家、そして分家の神薙家(かんなぎけ)についての話を聞かされていた。 “お前はこれらすべてを束ねるんやで”。  それが爺様の口癖。僕にはそれはとても重荷に思えた。おそらく爺様の表情が、表面上は笑っていてもいつだって暗かったからだ。  御剣家と分家の神薙家は室町の頃より続くいわゆる名家で、悪霊から京の都を守る勅命を受けていたとのことだ。  しかし(まつりごと)には関わらず、故に歴史の表舞台には出てこなかった。  そんな御剣家をどういうわけか受け継ぐこととなった僕だが、性格的に、そういうものが向いていないらしい。ことあるごとに御剣家の縁を教えようとする爺様を年齢を重ねるごとに避けるようになった。  正月やお盆のたびに立派な着物を誂えられて一族の前に駆り出されるのが嫌だというのもあるし、両親との面会が制限されたというのもあるだろう。  だが爺様は僕がそれを嫌がっていると察すると、驚くほど何も言ってこなくなった。  そうして僕は普通の中学生(といっても京都で有名な私立中学だが)としての生活を送ることができた。  そうして僕はこの春、高校に進学したのだ。
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