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爺様に会うのは本当に久しぶりだ。
正確には正月ぶりなのでそんなに久しぶりでもないのだが、今年の正月は中等部から高等部への進学で忙しいと理由をつけてあまり一族の行事に顔を出さなかったのできちんと話をしていないのだ。
「はああ。」
廊下を歩く途中思わず漏れた大きなため息に雄一さんが首をわずかにこちらに向けたが何も言わなかった。
この真面目と忠義が服を着て歩いているような男は一緒にいるだけで息が詰まる。そう思うのは僕が彼よりも若いからだろうか。実際爺様は彼と何の気兼ねもなく話をしている。
二人で庶務室の前に付くと雄一さんは腰を折って中に呼びかけた。
「当主、若様をお連れしました。」
「おう。来たか。入り。」
しわがれた、柔らかな声が応答する。懐かしい爺様の声に不思議とほっとした。雄一さんの視線に促され
「失礼します」
そう声をかけて襖をあける。襖の向こうは書院造の和室になっていて、その中央に立派な座敷机が据えられている。爺様こと、この御剣家当主はそこについて何やら書物を読んでいた。
爺様は僕の姿を確認するとニコリと微笑んで
「久しいな、高天。息災やったか。」
「ええ。爺様もお元気そうで何よりです。」
出来るだけ丁寧に頭を下げて返事をする。
その僕の応えに、くすくすと笑って首をすくめ、
「いやいや、日々衰えを感じとるわ。雄一、態々すまへんかったな。おおきに。」
「はっ。」
雄一さんは最敬礼をしてさがった。襖が閉められ足音が遠ざかると途端空間に緊張感が宿る。爺様の表情が少し厳しくなったのだ。
「とりあえずそこに座り。」
爺様は自分の向かいを指し示した。
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