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真剣な表情でそう迫る爽矢さんに僕は言葉を返せなかった。そんな僕に健也さんが助け船を出す。
「爽、今日はその辺にしたらどうだ。どちらにしろ性急すぎだ。神薙家でも年頃の人間で哨戒士の力を持つ可能性を持つものを探っておく。今日のところは高天殿も帰った方がいいだろう。」
「…わかった。高天、こっちでも何人か調べておく。お前も心当たりのある人間がいたらすぐ報告しろ。」
今日はそれで解散ということになった。
玄関までは健也さんと瀬奈さんが送ってくれた。爽矢さんは道場に戻ってしまった。
「じゃあ邪魔したな。また来るわ。」
「ええ…。お二人ともお気をつけて。」
何も言えずにうつむいたままの僕にみんなが気遣わしげな眼を向けているのが見なくてもわかった。
「あの…。」
そんな僕に声をかけたのはさっきからほとんど何もしゃべってなかった瀬奈さんだった。
「爽は…あんまり言葉を柔らかくすることとかできない人で、でも冷たいわけじゃない。
今まで、いろんなこと見てきたんだと思う。その…中には、私とか父さんに言えないものもいっぱいあってだから…。」
きっと彼女は口下手な人なんだと思う。でも不思議と彼女の言葉からは爽矢さんへの信頼とか愛情とかが感じられて、僕は思わず顔を上げた。
「だから…嫌わないで…あげないで。」
「…。」
「瀬奈。」
健也さんが咎めるように声をかけるのを爺様が止める。
そして僕に視線を送る。
僕もちゃんと言葉を選ばないと…。でも喉に言葉が張り付いて上手く出てきてくれない。
「…嫌っては、いません。」
やっと出てきたのはその一言だった。
「ただ、僕が子供過ぎたからです。大丈夫、爽矢さんのことを…嫌ってはいません。」
その言葉を聞いて、瀬奈さんは一瞬目を丸くしてそれから
「!」
まるで蕾が花開くようにあでやかに微笑んだ。
でもその目じりは下がっていてなんだか少し悲しげだった。
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