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「失礼します。」
僕が座ると爺様はすっと目を細めて口角を上げた。嬉しそうに微笑む爺様に首をかしげると
「いやすまへんな。呼び出して。
それにしても、大きいなったなあ、高天。それは学校の制服か?」
「ああ、制服はないんです。家にあったワイシャツとズボンで通ってます。」
「ああ、そうか。そやったな。あそこは前から制服がなかったわ。」
「爺様…。」
言葉を濁す僕に爺様は微笑みを浮かべたまま首を横に振った。
「かまへん。」
「いや、何も言ってませんけど。」
「言わんでもわかるわ。どうせ長く儂をさけとったからきまずいわ~とか思ってるんやろ。」
「…流石です。」
爺様は昔からそうだった。どこか達観していてその眼はどこまでも見通す力を持っているようで。それが子ども心に恐ろしく感じていたものだ。
「さて、忙しいしてんのにすまへんな。ちょっと時間を借りてもええか。」
「ええ。」
その返事に爺様は満足そうに微笑んだ。そしてふっと息を吸うと僕をまっすぐ見つめて話し始めた。
「お前も、もう16や。昔なら元服してるころやで。」
「何時代の話ですか。」
「ふふふ。まあ老害の戯言や。気にするな。儂が言いたいのはな、お前も大きいなったんやからそろそろ準備せなあかんってことや。」
「準備って、当主になるための、ですか?」
「ああ。そやな。いや違うか。」
どっちやねん。と思わずでた突っ込みは何とか胸中に収めることが出来た。爺様が至極真面目な顔でこちらを見ていたから。そして爺様は続けた。低い声で。
「高天。お前は何で高天なんやと思う?」
爺様は僕の目をまっすぐみたまま、そう問いかけてきた。
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