第一幕

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***  我らが御剣家のことを詳細に記した書がある。御剣家由来伝や。  今から話すのはそこに描かれたある化けもんについての話や。姑獲鳥(うぶめ)というやつや。姑獲鳥とは、人間の子ども攫って食ってしまう怪鳥の一種や。  昔はただ鬼といわれとったようやな。ともかくその鬼が、この御剣家の呪いに関わるんや。  この鬼は、その昔ある貴族の家に買われた。御剣家由来伝にはこうある。  藤堂時宗(とうどうときむね)、鳥の(なり)したる鬼手に入れたり。その鬼、背に羽もちたるが、影は人の女子(おなご)と相違なし。見目大層麗しく、時宗檻に入れときめかしたまふ。  古語はわかるやろ?  …そうか。次のテストは頑張るんやで。  まあ簡単に言うと背中に羽の生えた鬼を藤堂時宗という男が買い取ったんや。興味本位やったんやろう。  そしてその鬼は姿かたちは人とあまり変わらず、それどころか大層美しく、時宗はその鬼を愛してしまった。  しかし時宗はその美しさに惑わされ忘れてしもうた。  鬼は鬼。  その女の鬼は、時宗を出し抜き、時宗の息子や仕えていた臣下を殺し、食ってしまったんや。臣下たちは鬼を処分するよう時宗に進言するも時宗は「鬼の仕業ではない」と言い張り、鬼をかばってしもうた。  女鬼を管理していた臣下もきちんと鬼は鎖につないでいると擁護した。 結局鬼は退治されることはなく、しばらくの間、時宗の家で使用人の不審死が続いた。 家臣たちは不安を抱えてはいたが、結局何もできずにいた。 そして遂に鬼は逃げ、時宗を食い殺し屋敷に火を放った。
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