第四幕

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「菊端…。」 「ああ。」 「では…紅緒、なの?」 「紅緒?いや、えっと、あの。初めまして。健です。御剣健と言います。」  戸惑う健がそう挨拶すると、清子さんは一瞬呆けたような表情になった。  京太郎さんが声を掛けると、彼女ははっと意識をもどしたようで震える声で健に話しかける。 「菊端…ああ。そうですか…。本当に?紅緒、私を覚えてるやろ?なあ…。」  明らかに動揺している彼女を、京太郎さんが横から支える。  そんな彼女に手を掴まれて、健は思わず一歩後ろに引いた。 「えっと、すみません。あの、どっかでお会いしたことありますか?」  その健の言葉で、清子さんは動きを止めた。ただまっすぐ健の目を見ている。  爺様が清子さんの手をそっと取り、健から離した。 「清子はん…察しの通り、この子は先代の菊端の、お前の娘の記憶は持ってへん。新しい菊端や。」 「新しい…菊端。」 「…。」  清子さんは呆然とした様子で爺様を見て、そのあと健を見た。何度か「新しい菊端」と呟き(こうべ)をたれる。しかし次の瞬間素早く頭をあげて爺様に縋り付いた。 「では、紅緒は!紅緒はどこにいるのです!?」   「…知っとるはずや。あんたの娘は、もうとうの昔に死んでる。生き返りはしない。」  爺様の静かな言葉に、再び動きを止めたと思うと、みるみるうちにその瞳に涙を浮かべ、清子さんは声をあげて泣き始めた。僕と健はどうすればいいか分からず、ただ茫然するばかり。  京太郎さんはなんとか彼女を落ち着けようとその背中を優しく撫でて何事か話しかけたが、彼女の耳には届かない様子だ。  その後騒ぎを察した看護師さんに、僕らは京太郎さんを除いて問答無用で部屋を追い出されたのだった。
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