第四幕

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「母は、ずっと後悔しているのです。あの子を、上手く愛せなかったと。 だからあの子は、母が止めるのも聞かずに、姑獲鳥を倒しにいってしまったのだと。 実際、あの子が哨戒士だとわかるまで、母はどちらかというと妹より僕をかわいがっていました。 勘違いしないでいただきたいのだが、別に私の母は紅緒に虐待を加えていたわけではない。ただ明らかに私と比較し、紅緒への関心が低かった。 それは当時、決して珍しいことではなかった。 女より男に、次子より長子に関心をもつのが当たり前だった。」 「…。」 「私たちは、どこにでもいる普通の家族でした。 でも普通の家族っていうものは、総じて何かしら小さなひずみを抱えているものです。 そしてそれは、些細なできことで大きく歪んでしまうものだ。 あの子が出ていき、母は自分を責めた。死亡したという知らせが来た時には、もう見ていられないくらいでした。 そして、母は壊れてしまった。 次の菊端を待つようになっていき、いつか紅緒はよみがえると、そう信じていたんでしょう…。特にあの子が懇意にしていた哨戒士は、その前の代の記憶が残っていた方でしたから。 紅緒にいつかまた会えると信じる母を、私は止めなかった。 それで母が生きる希望を失わないなら、それでいいと。 でも、実際に次代の哨戒士が生まれたと聞き、僕は決断しなくてはならなくなった。 母を欺き、菊端と会わせないようにするが、いっそ会わせてしまうのか――。 会わせるとしたらば、その先はどうするのか。 もし菊端が先代の記憶を持っていたならどうなるだろう、持っていなければどうなるだろう。そればかり考えていました。 そして、御当主より、新しい菊端が見つかったこと、そしてどうやら先代の記憶を受けついではいないことを聞き、決断しました。母を夢から覚ませてやろうと。」 「…。」 「結果は、あのような形になりました。私は満足していますよ…。」
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