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「母は、ずっと後悔しているのです。あの子を、上手く愛せなかったと。
だからあの子は、母が止めるのも聞かずに、姑獲鳥を倒しにいってしまったのだと。
実際、あの子が哨戒士だとわかるまで、母はどちらかというと妹より僕をかわいがっていました。
勘違いしないでいただきたいのだが、別に私の母は紅緒に虐待を加えていたわけではない。ただ明らかに私と比較し、紅緒への関心が低かった。
それは当時、決して珍しいことではなかった。
女より男に、次子より長子に関心をもつのが当たり前だった。」
「…。」
「私たちは、どこにでもいる普通の家族でした。
でも普通の家族っていうものは、総じて何かしら小さなひずみを抱えているものです。
そしてそれは、些細なできことで大きく歪んでしまうものだ。
あの子が出ていき、母は自分を責めた。死亡したという知らせが来た時には、もう見ていられないくらいでした。
そして、母は壊れてしまった。
次の菊端を待つようになっていき、いつか紅緒はよみがえると、そう信じていたんでしょう…。特にあの子が懇意にしていた哨戒士は、その前の代の記憶が残っていた方でしたから。
紅緒にいつかまた会えると信じる母を、私は止めなかった。
それで母が生きる希望を失わないなら、それでいいと。
でも、実際に次代の哨戒士が生まれたと聞き、僕は決断しなくてはならなくなった。
母を欺き、菊端と会わせないようにするが、いっそ会わせてしまうのか――。
会わせるとしたらば、その先はどうするのか。
もし菊端が先代の記憶を持っていたならどうなるだろう、持っていなければどうなるだろう。そればかり考えていました。
そして、御当主より、新しい菊端が見つかったこと、そしてどうやら先代の記憶を受けついではいないことを聞き、決断しました。母を夢から覚ませてやろうと。」
「…。」
「結果は、あのような形になりました。私は満足していますよ…。」
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