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京太郎さんは、その言葉を残して出て行った。僕らはただ黙っていた。ただ黙って、彼が残した日記の表紙を見つめていた。
過去に、囚われた囚人――。
思わず、爽矢さんに目をやった。だけど彼の顔には何の感情も浮かんでいなかった。まさしく無だ。
僕が見つめていることに気が付いた爽矢さんはふっと笑みをこぼして肩をすくめた。
「さて、帰ろうか。」
「そやな。」
爺様も腰を上げた。
健は最後に腰を上げ、逡巡した末渡された日記を鞄にしまった。
帰りの車中で、健はただ静かに窓の外を流れる鴨川を見つめていた。
僕はそんな健の横顔を盗み見ながら、京太郎さんのことを考えていた。京太郎さんの言葉の意味を――。
その数日後、健は僕にメールを送ってきた。
たった一文
”俺、菊端ってやつ、やるよ”と。
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