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温かい手。そこから互いの愛おしさが行き来しているようだった。
「タクシーの中までの彼方には……アタシしかいなかった。
心配で、不安だったけど……なんていうのかな……頼ってもらえて、嬉しかったの」
ぎゅっ、着痩せする胸に頬を寄せる。
「……お願い。
アタシだけ、見てて?」
浅ましいなんてレベルじゃない。気のふれた発想だ。
そうわかっているのに、言わずにいられない。溢れ出て、止まらない。
彼方なら、きっと受け止めてくれると信じているから。
「………………はぁ」
返ってきたのは予想外の溜息だった。
奇妙ないたたまれなさに縮こまれば、
「大いに喜ぶべきか、懇々と説教するべきか」
悩むなぁ。
おかしさを堪えた口調に恐る恐る顔を上げる。
暖かな微笑みを浮かべた優しい瞳と、和らげられた口角。
すべてのヒトに自慢したいのに、誰一人、見せたくない。アタシの、男。
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