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ツキアッテ クダサイーーー。
※※※
棗球一つの薄暗がりを、何度も何度も白い光が横切った。
時折漏れる深いため息が、淀んだ部屋の空気をさらに重くする。
パタン……パタン……
閉じては開け、開けて眺めては苦しげに眉をひそめてまた閉じる。
先月色違いで買ったばかりのカバーは、使用二年を経過したスマホ本体よりも擦れてくたびれて、くすんで見えた。
『ごめんね』
『私が悪かったです』
『お願いだから連絡ください』
寝る間も惜しみ、移動中も講義中も、ご飯の時だってずっと待っているのに。なのに、既読のサインがつかない。
どんどん一方的な謝罪メッセージだけが溜まり続けて、すでに六日がたっていた。
きっかけは些細なこと……だったと思う。
彼オススメのカフェで、たまたま頼んだシフォンケーキが、たまたま自分の口には合わなかっただけのこと。
「焼き時間長過ぎるんじゃないかなぁ……」深い意味もなくこぼれた落ちた言葉には、もしかしたら、料理上手だというアピールくらいは無意識で入っていたかもしれないけれど………。
今度焼いてあげるね。言おうとして、フォークをおいた。
それだけなのにーーー。
怒って帰ってしまった彼は、メッセージもメールも電話も、すべて無視と決め込んでしまったらしい。
はぁぁ……。
また一つ、ベッドに寝転がったまま、ため息をもらす。
会いに行ったら……尚更怒られるかな……。でも、会いたい……。
悶々とした思いでスマホをぼふっと投げ捨てた。
……と、
ブブブブ……ブブブブ……
本当に久しぶりに、熱のこもったスマホがメッセージの着信を告げ始めた。
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