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「祐介くん、だっけ。電話まってたんでしょ?」
「まぁ……」
呆気にとられていると、
「じゃあ、祐介くんにふられちゃったんだ?」
とんでもない衝撃。
「ちが…………もん」
考えないようにしていたこと。目の前に突きつけられて、声がふるえた。
「こんなイイコなのに。祐介くん、最低だね」
あんたに祐介くんの何がわかる。祐介くんは優しくて、かっこよくて、アタシみたいな世間知らずにも寛容で……。
言い返したいのに、なぜか、今声を出せば嗚咽になってしまいそうで、亜由美はグッと唇を噛んでこらえた。
「オレがさ、祐介くんの代わりになってあげようか」
あんたなんかに祐介くん代わりなんて無理だよ。
心の中で言う。
「オレさ、実は今、ふられたばかりなの。正しい番号にちゃんとメールしてさ」
亜由美が応えないのをいいことに、電話の向こうの見知らぬ男は話を進めていく。
「だからオレ……死のうと思ってたんだ。もしこの電話に誰も出なければ」
「え!?」
ゴシゴシと枕で涙を拭いていた亜由美は、ガバリと顔を上げ、すぐそこに投げ出され、ほのかな光を放っているスマホを見た。この向こうに、一体誰がいるんだろう。やっと本気で気になった。
「ウソだと思ってるでしょ」
その自嘲気味な笑いは知ってる。ついさっき、亜由美の頬に浮かんだものだ。
「ウソじゃない。だって生きてる意味ないし。
まぁ、賭はオレの負け。電話に出たから、生きるしかない」
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