7人が本棚に入れています
本棚に追加
「使って下さい」
何故か自分の声が遠く聞こえた。
すんなりと言葉が出たつもりだったが、遠くから聞こえた自分の声は、頼りなく掠れている。
「えっ・・・あの・・・」
俺がハンカチを差し出したことで、彼女は見られていた事に気づいたのか、赤面する。
「あ、ありがとね。でもハンカチあるから大丈夫だよ」
手で涙を拭い、無理に笑う。
その姿を見ていると撫でてあげたいと思う、抱きしめたいと思う、そんな気持ちが強くなる。
「辛いときって、誰かに優しくされたくないですか?だからこっち使って下さい」
たどたどしく言えば、彼女はクスッと笑う。
「あ、俺学校ではタオル使ってるから。ハンカチは母が無理やり持たせるから持ってるだけで、使ってないです。ちゃんと綺麗ですから!」
笑われた理由が分からなくて、なんだかよくわからないままに言い訳をする。
顔が熱くてたまらない。
「違うの。キミは優しいね。あーもーなんでキミみたいな人、好きにならなかったんだろって思ったら、なーんかいろいろ馬鹿らしくなってきて」
彼女はまた笑う。その目尻からひとつふたつと涙が流れる。
「よし、ハンカチ貸して?こんな若いイケメンに心配されるなんて、私もまだまだ捨てたもんじゃないね?」
彼女は籠をもって立ち上がった。姿勢まで綺麗で見蕩れる。
背丈は俺より低いのに、どこか大きく見える。
「ねー、キミ時間ある?御姉様から御礼をさせて頂きたいの」
素敵な女性が自分を誘ってくれている。
ドキドキした。胸がいっぱいになったようで、言葉がぎこちなく転がる。
「時間ならあります。両親夜いないので」
「お仕事なの?」
「・・・そんなものです」
本当は違ったけど、今出会ったばかりの人にその理由を話すことは憚られた。
「・・・・・・そっか。なら、御姉様とご飯いこ?そーしよ?」
彼女は一人で頷くと、レジに歩いて行った。
カツカツと音を立てるヒールの音が遠くなり、3分ほどで近づいてきた。
「キミが制服だと不味いし、私もこんな顔だし、いちど解散しよ?家は遠いの?」
「自転車で10分位です」
「家の近くに何かある?分かりやすいとこ」
「それなら・・・・・・」
約束をする彼女は、どこか嬉しそうに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!