ひとつめ

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「使って下さい」 何故か自分の声が遠く聞こえた。 すんなりと言葉が出たつもりだったが、遠くから聞こえた自分の声は、頼りなく掠れている。 「えっ・・・あの・・・」 俺がハンカチを差し出したことで、彼女は見られていた事に気づいたのか、赤面する。 「あ、ありがとね。でもハンカチあるから大丈夫だよ」 手で涙を拭い、無理に笑う。 その姿を見ていると撫でてあげたいと思う、抱きしめたいと思う、そんな気持ちが強くなる。 「辛いときって、誰かに優しくされたくないですか?だからこっち使って下さい」 たどたどしく言えば、彼女はクスッと笑う。 「あ、俺学校ではタオル使ってるから。ハンカチは母が無理やり持たせるから持ってるだけで、使ってないです。ちゃんと綺麗ですから!」 笑われた理由が分からなくて、なんだかよくわからないままに言い訳をする。 顔が熱くてたまらない。 「違うの。キミは優しいね。あーもーなんでキミみたいな人、好きにならなかったんだろって思ったら、なーんかいろいろ馬鹿らしくなってきて」 彼女はまた笑う。その目尻からひとつふたつと涙が流れる。 「よし、ハンカチ貸して?こんな若いイケメンに心配されるなんて、私もまだまだ捨てたもんじゃないね?」 彼女は籠をもって立ち上がった。姿勢まで綺麗で見蕩れる。 背丈は俺より低いのに、どこか大きく見える。 「ねー、キミ時間ある?御姉様から御礼をさせて頂きたいの」 素敵な女性が自分を誘ってくれている。 ドキドキした。胸がいっぱいになったようで、言葉がぎこちなく転がる。 「時間ならあります。両親夜いないので」 「お仕事なの?」 「・・・そんなものです」 本当は違ったけど、今出会ったばかりの人にその理由を話すことは憚られた。 「・・・・・・そっか。なら、御姉様とご飯いこ?そーしよ?」 彼女は一人で頷くと、レジに歩いて行った。 カツカツと音を立てるヒールの音が遠くなり、3分ほどで近づいてきた。 「キミが制服だと不味いし、私もこんな顔だし、いちど解散しよ?家は遠いの?」 「自転車で10分位です」 「家の近くに何かある?分かりやすいとこ」 「それなら・・・・・・」 約束をする彼女は、どこか嬉しそうに見えた。
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