ひとつめ

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多分汗臭くはないけれど、それでも気になって仕方ない。 時計を見ればまだ時間には幾分かの余裕があった。 よし、シャワーを浴びよう。 誰にともなく宣言して、制服を脱ぐ。 冷気に当てられた肌が、プツプツと粟立った。 浴室に暖房をいれ、下着も脱ぐ。 ブルッと身体が大きく震える。寒い。 まだ暖まりきらない浴室に入り、シャワーのコックを捻る。 寒さのため、しばらく降り注ぐ湯の中にうずくまった。 まだ余裕があるはずなのに、急かされるような感覚が不意に襲ってきた。 がむしゃらにペダルを漕いだ帰り道とおなじ、落ち着かない気持ち。 湯の雨から手を伸ばし、シャンプーを取る。 一度シャワーを止める事も億劫で、僅かに頭をシャワーの射程圏内からだし、ガシガシと洗う。 洗うはしから湯の雨に打たれたシャンプーが、ダーッと背中を流れていく感覚があったが、あえて 気にしない。 身体も同様に横着極まりない洗いかたをして、浴室を出る。 脱衣場の鏡が目についた。 多分、身体つきは悪くない。 引退するまではバスケット部でレギュラーだったし、それなりに自主トレにも励んできた。 仲間内では一番腹筋が綺麗に割れているし、クラスメイトの女子にも【イイカラダ】と誉められてきた。 しかしどうだろう。 何故かいま鏡に映る自分は、とても不恰好で頼りなく見える。 子どもだと思われたくない。 しかし一方で、子どもだと思われても仕方ない、とも考える。 たかが一度、ご飯を食べにいくだけなのに。 自分はこんなにもプライドが高かったのかと、赤面する。 こんなことで一喜一憂するのは、子どもである証拠かもしれない。 そう考え、今までモヤモヤ考えた事を頭の中で握り潰した。 つもりになった。 細身のジーパン、デザートカラーのVネック、黒のジャケット、差し色に赤が入ったチェックのストール。 結局、いつもより大人っぽくを意識してしまった。 その事に気付いてはいたが、敢えてそのまま服を着替える事はしなかった。 自分が子どもであることが、心の奥に引っ掛かっていたから。 髪の毛を乱暴に乾かし、ワックスで固め終わる頃、丁度家を出る時間となった。
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