いち

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「集まれーっ!」 はーい きゃっ きゃっ  はしゃいで集合するクラスメートたちの輪に、近付こうとして、足が止まる なに? ついつい、じっとりした視線を送ってくる方向に顔を向け、激しく後悔した 僕を見て口角を上げた唇 隣に立つ男に絡みつけていた腕を解き、手を振る女を無視して (卒業旅行に来てまで、厄介ごとを持ち込むなよ) 心の中で罵倒した 「ヘタレの薫ちゃん。水が怖ェくせに、神社の境内歩けんのか」 あー、やだやだ うんざりした気分で 髪をハリネズミのようにツンツン逆立てた『自称美和の男』鉄平を流し見た 僕は鉄平の『俺の女』美和に辟易させられてる 一年の頃から飽きずに三年間 ハリウッド俳優顔負けの端正な顔に、アスリートの肉体を持つ僕の兄 加藤保に近付くため “弟の薫と親しくさせて頂いてる、美和です” Facebookに僕の隠し撮り写真をアップし、兄の関心を惹こうとする女を、この男は好きらしい 「いいじゃない。保さんを紹介してくれたって、友だちでしょう?」 しつこく僕に付き纏い、家にまで付いて来ようとする美和に 「僕にも、友だちを選ぶ権利があるっての忘れてない? 答えは、ノー 紹介する気もないし、ついて来て欲しくもない」 僕にしてみれば真っ当な意見を口にして断れば「酷い」と泣かれ 「よくも俺の女を泣かしてくれたな」 どう贔屓目に見ても、花畑で蜜を集めるミツバチのように 男から男へと飛び回る女、美和の 両手どころか足の指に位置する遊び相手の鉄平に、なぜ? 睨まれなければいけないのか、納得いかない
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