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中学最後の卒業旅行を企画し、引率までするのは我らが担任・丸木先生くらいだろう
ただ、行き先が悪い
「先生は毎年行ってるんだ。世界文化遺産の宮島に」
人の好さそうな顔で笑って
「素晴らしい景色に一見の価値ありだ。みんなに見せてやりたい」
バスでも電車でもなく、フェリーに乗り込み海を渡らなければ上陸出来ない島を、提案しないで欲しい
底の見えない深い水溜まりを思い浮かべただけで、ゾッとする
泳げる人には分からないんだろうな
水に浮かぶ乗り物にカナヅチの生命線、浮き輪なしで乗船する恐怖が
「先生ー!」
卒業式終了後
卒業旅行の確認をする先生に、挙手
「おう、なんだ?」
う、苦しい
その爽やかな笑顔が、辛い
にこにこ笑う先生から“祝・卒業”書かれた黒板へ
“不参加希望”
の、内心を悟られないよう視線をずらした
「雨天中止ですか?」
「暴風雨なら諦めるしかないが、心配ない。週間天気予報では快晴だ」
「あざーっす」
机に突っ伏して、あーあ
ため息をかみ殺した僕は、窓の外を眺め
白く分厚い雲に向かって《三日後、台風が上陸しますように》密かに祈った
そして、三日後の今日
《宮島行き》
フェリー乗り場の潮の匂いの混ざる風に吹かれ「あー、寒い」天気を恨みつつ、看板を眺めてる
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