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「参加するから来てるっての」
「分かってんだろ。おまえ」
臭っ
自慢の胸を突き出し歩く美和の、咳き込みそうな香水の移り香を身に纏った鉄平から
顔を背けた
「美和の気を惹きたいからって、イケメンの兄貴を餌に持ち出すなよ」
はい~~~?
マジで言ってんの、コイツ
三年になって茶髪を黒に染め、受験が終わると同時に茶髪に染め戻した鉄平の顔を、マジマジと観察して
「ケホッ、コホッ」
香水の匂いを吸い込んでしまった
間抜けではあるけど、背に腹は代えられない
手で、しっかり鼻を押さえ
「当たり前だろう」
呆れを表現した自分の声に、ちょっと不満
聞き惚れそうな兄と父のバリトンと違い、母親似の僕は声が高い
バリトンまでは無理でも・・・・・・
鉄平のアホ面を見据えた僕は、喉を絞り、意識して低い声を出した
「お前こそ頼むぜ。あの女、ちょろちょろして鬱陶しいから手綱引いてろ」
「おい、人の女を尻軽みてぇな言い方するなよ」
舌を打ち、目を尖らせた鉄平が僕に肩を寄せてくる
重なる腕から
普段の弱腰は演技かと、疑いたくなる筋力が伝わってきた
いや?
コイツのことだ
相手によって態度を変えてるに違いない
ってことは、僕に対しては強気に出れると判断したってことだ
あ、何か腹立つ
めちゃくちゃ気分悪い
でも、船に同乗しなければならない状況を考えると、挑発にのるのは良策とは思えない
やーめた
いけ好かない男との会話を切り上げ、鉄平に背を向けた
「ちょっと待て、薫。おまえなにシカトしてくれてんの」
あー、やだ、しつこい
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