いち

6/12
前へ
/160ページ
次へ
「もういいって、浩介、やめよう」 「ムリ。別に薫のためじゃねぇし、俺が気に入らねぇだけだから気にすんな」 「鉄平に何の恨みがあるっての」 「俺のツレに手ェ出したこと」 「何それ、僕絡みじゃないか」 「薫だとは言ってないだろ。ツレって言ったの、オレは」 全くもう 拗ねた口調で言って、唇を尖らせ笑う浩介にズッコケそうになる わざと隙を作って鉄平を逃がす浩介の、非情な男に徹し切れない優しさを、僕は好き 「アイツ、マジでムカつく」 立ち上がった鉄平が、いつも連む島田の隣へ駆け込むのを見届けた浩介から、笑顔が消えた 「ごめんな、薫 俺が母ちゃんに喋ったせいで、卒業旅行に参加するんだろ 無理してないか?」 えー? 浩介ってば 「そんなこと気にしてたの?」 「するさ。今だって、絡まれちまっただろう」 三年になって哲平と同じクラスになったのは僕の不運だけど、浩介と同じクラスになれたのは僕の幸運 最高のクラスで最高の仲間と、中学最後の一年を過ごした 体育祭でバニーガールの仮装して 文化祭でダンス大会に出場した バカみたいに弾けた僕たちを笑って許してくれた先生や、クラスメートたちと旅行に行けるのは、嬉しい 「助けてくれたじゃん」 「当たり前だろ」 真顔で『当たり前だろ』言われると、照れる 肩を浩介に寄せて 鉄平と比べ物にならない腕の筋肉を感じながら「知ってる」笑って、集合場所まで歩いた
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加