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あの時を思い返すと背筋がゾクゾクッとして、我知らぬ間に達してしまう心地がした。上下する手の動きがやまない。ベッドが軋む。暗い部屋の中でぼうっと画面に浮かぶ黒い蟲から白い液体が溢れているのを眺めていると、物心ついて一番はじめに見た記憶がまざまざと思いだされた。
これで何度目とも知れない見慣れた景色だ。それでも飽きるなんてことは当分なさそうだった。
女王蟻の腹を破いた枝先が白く濡れるところだった。三歳か四歳の頃だろうか、たまたま庭先を大きな蟻が歩いていたので、その辺に転がっていた木の枝で、ふっくらと膨れている部分を突いてみたのだった。
直後、しがらみから解き放たれるように溢れたとろとろの液体を目の当たりにして、まだ言語も操り難いほど幼かった僕が酷く感嘆する姿は、傍から見てどう映ったのだろう。きっとみんな見向きもしなかったはずだ。それほど静かに情念が湧き上がったことを、二〇年近く経た今でも鮮明に覚えている。
蟻のお腹には白いものが詰まっていると知ってからは、試しに何匹かのお腹を破いてみた。しかし女王蟻のお腹は特別大きくて、だからそれに敵うほどの喜びにはなかなか出会えなかった。
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