キンモクセイ

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 窓の外はしんしんと雪が積もっていた。雪の多いこの地においても、今日は一段と冷える。  なぜこんな日に見合いかと、憂鬱な気分で櫻子は押し潰されそうだ。指の間で本から抜き出したしおりを弄んでいると、祖母のきく乃が入ってきた。 「姿勢が悪いわよ櫻子」 「だっておばあ様、着物って苦しいのよ。今すぐにでも脱いでしまいたいのを我慢しているの、これでもね」 「もう少しで相手も来ると思うから辛抱なさい」  櫻子は視線を手元のしおりに落とす。 「このしおり・・・いい香りがする」 「その本どこから持ってきたの」 「おじい様の書斎から。この香りキンモクセイだわ」 ぽつりと零した櫻子の言葉尻を攫うようにインターホンが鳴る。  跳ねるように部屋を出たきく乃が連れてきた青年は、しおりと同じ季節外れの香りを纏って現れた。  変わらず雪は降っている。だが、櫻子の心には薄日が差しそうな気配だ。
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