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「お前、何、平然としてるんだよ? 余裕か?」
後藤が剣呑な表情で俺を睨みつけた。
「いいや、そうじゃねぇよ。結局俺たちって、ちっせーなって思ってさ」
「お前!? ケンカ売ってんのか?」
体を半分乗り出してきた後藤に、俺は小さく手を振った。
「俺もなんだよ……、俺もさ、泉が羨ましくて。泉の恋人に、ほら例の、泉のスキャンダル……、バラしたんだ」
「ぶっはっ! お前、マジかよ!?」
さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやったんだか、後藤が噴出した。
「ああ、マジだ。
何でも持ってる泉が羨しくて、せめて恋人と拗れればいいと思ったんだよ」
俺はあっさり白状した。
そして自覚した。
そうだ、俺はそう思ったんだ。
アイツの弱点を見つけたと思ったんだ。振られてしまえはいいのにって思ったんだ。
「お前、陰険なやつだなー。で? どうだったんだよ? 泉、振られたか?」
「それがさ、返り討ち食らったよ。
『噂は嘘です。泉さんを信じてます』なんてさ、キラキラした目で言われてさ。
ダメージ半端なかった……」
面白そうに尋ねる後藤に、俺がそう告白すると、後藤はますます笑い出して
「そりゃあ~、痛ってぇな~」言いながら、腹を抱えた。
「だから俺も……、お前と同じってことだ。
ついでに坂本さんに狙われてるんだろ?
俺たち運命共同体だな……」
「お前と運命共同体か……、それも何だかな……」
後藤は肩をすくめてため息を漏らしたが「あ! でも」顔を上げてこっちを向いた。
「お前って、とにかく運が良い奴だから、お前と運命共同体なら、俺にも運が向いてくるかもな」
俺の知ってる人懐っこい後藤の顔が、そんなことを言って笑った。
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