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「おい、朝礼始めるぞ」
「うわ、やべっ」
先輩の少しいらだった声が聞こえて、俺は急いで帽子をかぶり更衣室を出た。
朝の朝礼が終わり、拳銃を携帯する手続きが終わると、いよいよ交番へと向かう。
南交番までは、走って10分の距離。
「柏木陽一、交番勤務に向かいます!」
形ばかりの敬礼をして、俺は渋谷警察署を後にした。
「おはようございます! 交代します!」
「おはよう、今日も元気だね」
5歳年上の巡査部長の佐伯さんは、眠そうな顔をしながら笑顔で挨拶を返してくれた。
「昨日さぁ……、夜中の呼び出しがあってさぁ……」
欠伸を噛み殺しながら引き継ぎ作業を終えると、佐伯さんは自転車にまたいで帰っていった。
日誌には【喧嘩1、電話対応2、窃盗2、人身事故1、落とし物3】という記載の横に時間が書かれている。
それによると、夜中の呼び出しは交通事故だったらしい。
毎度のことながら、つくづく気の抜けない仕事だよなぁ。
南交番の受持ち地区は、東京のど真ん中だからか、とにかく揉め事が多い。
あっちで喧嘩、こっちで盗難、そっちで傷害……、本当に目まぐるしい。
休んでる暇なんかありゃしない。
一つの事件が片付いて、交番戻って書類書いて、また事件で呼び出されて。
三交代8時間でクルクルまわる日々。
そんな繰り返しの日常が慌ただしく過ぎていったある日。
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