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「柏木……、俺はな……」
俺に目線を寄越した後藤は、少しだけ困った顔をした。
「俺は、坂本さんがなんでお前を憎むのか、駒になってみて少し分かる様な気がしたんだ。
お前は陸上馬鹿なのに、ただの陸上馬鹿なのに。
いつも美味しいとこ取りなんだよ」
「美味しいとこって……」
「お前はただ、自分のやりたいようにやっているだけで、碌に努力もしていないくせに、いつの間にかランニングポリスに選ばれてさ。
警備行って、アイドルの護衛なんかやって、しまいにはヒーローだろ?」
「い、い、いや、俺だって!」
「俺はな、柏木。
中学の頃から刑事になりたかった。
だから柔道始めて、進路も警官になりやすい大学選んで、警察学校でも卒業した後もずっと刑事課への希望出してるんだぜ!
なのによ、蓋開けてみれば上司がただのクソから、最悪のクソに変わるだけだってよ!
それって、おかしくねぇか!? なんでお前ばっかり! って思うだろ!」
苦しそうに胸の中の大きな塊を一気に吐き出すみたいにして、声を荒げた。
『そんなこと知るかよ! 勝手に妬んでんじゃねぇよ!!』
こう言えたら、どんなに良いだろう。
だけど、俺は気づいたんだ。
同じだな、って。俺だって泉に対して、こんな風に妬んだんじゃないのか?
泉が羨ましかった。
飄々としているように見える泉が。なんでも持ってる泉が。
――悔しかったんだ。
だからさ、後藤。分かるんだよ。
人の事羨んだり、妬んだり、そういうドロドロした感情っていうのはさ、向けられた奴よりも向けた奴の方が、何倍も惨めで辛くてやるせないんだ。
現に今のお前、俺よりもよっぽど辛そうな顔してるぞ……。
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