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渋谷署の前は、街に繰り出した若者と、ここから明治神宮に向かう参拝者とで、ごった返していた。
ここにいたら、走れないよなぁ。さてどこへ行こうか……、と考えを巡らし、とりあえず人気の少ない方向へと足を運んだ。
ふと、ポケットの中の携帯が震えだした。
「おっと!」
取りだして画面を覗き込むと、谷木の文字。
少し躊躇った後、俺は画面をタップした。
耳に当てる前に「明けましておめでとう!」という大声援がスピーカーから溢れだした。
え? え? 慌てて携帯に耳を当てた。
「あ、あけましておめでとうございます! お疲れ様です!」
俺が固くなって告げると、泉の「今年もよろしくなぁー!」という声が聞こえた。
『今年もよろしく』って、泉はこの言葉をどんな意味で言ってくれてんだ?
俺たちは後3か月しか、警備課にいられないんだぞ。
だというのに、本当にそう言ってるのか?
俺は言葉に詰まって、その場にうずくまりたくなった。
「今年もよろしく」
誰もが使う社交辞令に、こんなにも心が動かされているなんて、俺は相当弱っているらしい。
耳に届く声は、泉から谷木さんの穏やかな笑い声に変わった。
「お前今どこだよ? 暇なら、こっち来るか?」
元旦に休めるってあんなに喜んでいたはずなのに、谷木さんのその申し出は、俺には何よりも嬉しい言葉だった。
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