新年!

4/8
前へ
/170ページ
次へ
 渋谷署の前は、街に繰り出した若者と、ここから明治神宮に向かう参拝者とで、ごった返していた。  ここにいたら、走れないよなぁ。さてどこへ行こうか……、と考えを巡らし、とりあえず人気の少ない方向へと足を運んだ。  ふと、ポケットの中の携帯が震えだした。 「おっと!」  取りだして画面を覗き込むと、谷木の文字。  少し躊躇った後、俺は画面をタップした。  耳に当てる前に「明けましておめでとう!」という大声援がスピーカーから溢れだした。  え? え? 慌てて携帯に耳を当てた。 「あ、あけましておめでとうございます! お疲れ様です!」  俺が固くなって告げると、泉の「今年もよろしくなぁー!」という声が聞こえた。  『今年もよろしく』って、泉はこの言葉をどんな意味で言ってくれてんだ?  俺たちは後3か月しか、警備課にいられないんだぞ。  だというのに、本当にそう言ってるのか?  俺は言葉に詰まって、その場にうずくまりたくなった。  「今年もよろしく」  誰もが使う社交辞令に、こんなにも心が動かされているなんて、俺は相当弱っているらしい。  耳に届く声は、泉から谷木さんの穏やかな笑い声に変わった。 「お前今どこだよ? 暇なら、こっち来るか?」  元旦に休めるってあんなに喜んでいたはずなのに、谷木さんのその申し出は、俺には何よりも嬉しい言葉だった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加