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先輩の魂が抜かれる?
「先輩、もっと写真撮らせてください!」
「え」
先輩は僕の言葉に、口をぽかんと開けた状態で固まった。
写真を撮られたら魂が抜かれるだなんて文明開化の頃の迷信だ。それは僕も分かってる。
でも先輩の魂を抜いて写真の中に閉じ込めるだなんて、考えただけで幸福に押し潰されそうだ。心と身体だけじゃなく先輩の魂も手に入れることが出来たなら、もう僕は他に何も要らない。
だけどそこで先輩がちょっとだけ困惑した顔をしているのに気が付いて、僕は慌てて撤回した。
「あ、すみません、先輩写真撮られるの嫌なんですよね、今のは忘れてください」
「あぁ、うん、分かってくれたならいいよ」
ありがとう圭都くん、と先輩は僕の頭を撫でてくれる。
結局写真を撮ることで先輩の魂を抜くなんて出来ないのだから、先輩の魂が抜かれていくことを想像しながら先輩の写真を撮って先輩に不快感を与えるくらいなら引き下がった方が良い。しかもそれで先輩は僕の頭を撫でてくれたのだから、これが正解だったのだろう。
先輩の手の感触に、意識していないのに顔が勝手に綻ぶ。
先輩が、先輩の、先輩に。『先輩』が付く何かに触れている、それだけでもう僕は幸せになれるようだった。
もちろん、先輩にはいつか僕だけを見てもらいますけどね。
「でもどうして急に俺の写真なんて欲しくなったの、圭都くんなら俺の写真の一枚や二枚持ってるものだと思ってたけど」
「それはもちろんそうなんですけど」
と僕が言うと、また先輩の表情がちょっとだけ強ばったように感じた。もう先輩の写真を持ってるのに、もっといっぱい撮ろうとしたから呆れられちゃったのかな?
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