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放課後。部活に行く前に先輩に会う為に先輩のクラスに立ち寄ろうとしていた時、先輩がトイレに入って行くのをたまたま目撃した。
…………撮りたい。
先輩には写真は好きじゃないと言われたけど、でも、撮りたい。先輩のあられもない姿を。
ごめんなさい先輩、これで最後の一枚にしますから。心の中で詫びを入れて、静かにトイレの扉を開けた、のだけれど、その僅かな音が聞こえてしまったらしく何気なくこちらを向いた先輩の視線とデジカメの画面越しにバッチリと目があった。
「…………圭都くん」
「違うんです、僕はただ用を足そうとして……違うんです!!」
「圭都くん」
先輩はそれ以上何も言わず何も責めることもなく、ただただ恐ろしい程の真顔でじっと僕の目を見つめる。冷や汗がじっとりと背中を濡らし、制服のシャツがへばりつく不快な感覚に苛まれる。
「……ごめんなさい、もうしないから、ごめんなさい、許して下さい……」
その沈黙に耐えられなくなった僕は、泣きそうになりながら謝罪の言葉を絞り出した。
なんてことをしてしまったんだ、僕は。浅ましい欲を出して先輩の信頼を無くしてしまった。
もう駄目だろうか。先輩の信頼を回復出来ないだろうか。目の前が真っ暗になる。
そして何かを考えるより先に、僕はデジカメをトイレの床に投げつけていた。先輩が息を飲む気配がする。僕は更に床の上に転がるデジカメに、何度も何度も足を振り下ろして蹴りつけた。
いつか先輩の為に作ったお弁当をこの足で踏み潰した時の光景が目の前を掠めたけれど、あの時とは決定的に違う。怒っているのは先輩だ。それを思うと、余計に悲しくなってとうとう涙が溢れ出した。
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