ある日

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「また雪が降ってきたわね」 窓を見ながら静かに言った。 「それではお姉さま、熱いお茶のお替りでも」 私はお姉さまが最近気に入って取り寄せているお茶をねだった。 「ええ、そうしましょう」 お姉さまはお手伝いさんを呼び、熱いお茶を2人分頼む。 「ねえお姉さま、またあの話をして」 「あの話?」 「六辺香ですわ」 「……もう終わったことよ」 「なんでですの? 素敵な話じゃありませんか。私が生まれる前、お姉さまがお父様のご友人のご子息から六辺香という――」 「いい加減にしなさい」 少し怒ったような声で、私をにらみながら言う。 「……あの日以来、お姉さまは六辺香という言葉を使わなくなってしまいましたわ」 「それは――」 ノックがしてお手伝いさんが部屋に入って来た。 「奥様、旦那様のお帰りです」 「今すぐ行くわ」 実の妹の私を置いて、お姉さまは笑顔で玄関へ向かった。 本当は知っていますよ、お姉さま。 このたび晴れて結婚した初恋の方とのなれそめばなしを照れていらっしゃることくらい。 私は今いるお姉さまの新居の窓から見える六辺香を見た。 それは白く優しく、静かに積もっていった。
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