足跡

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 真っ白だった雪にも、人が歩けばその証は浮かび上がる。  なら、本は。  文字は筆者の歩みの跡。  まっさらな紙の上に描かれた、誰かのための道標。  そこをなぞる私の足跡は、いったいどうすれば浮かび上がるのかしら。  梱包を解いたとき。  表紙をめくったとき。  うっかり折り目をつけてしまったとき。  紙が擦りきれるほどページを巡ったとき。  いいえ、違う。  簡単なこと。しおりを挟むだけ。 「この雪、いつになったらやむかしら」  しんしんと降り積もる雪の影に証は埋もれてゆく。  私がページをめくるたび、私の足跡は記憶の中に薄れてゆく。  いつになったらやむかしら。  いつになったら私は、この証を挟めるかしら。  灰色の空を仰いでいると、ページがぱらりとめくられた。
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