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携帯の画面に映っていたのは、一件の着信履歴だった。
上司との謁見のため、この部屋を出たのが三十分ほど前のことだから、その間にかかってきたのだろう。早次(はやつぎ)が携帯を手に取ると、次いでメールが届く。
やれやれ、とメールを開くと、そこには元相棒の名前があった。
>>差出人 高雫(たかしずく)日生(ひなせ)
件名 無題
フィラデルフィアを発ちました。
明日の昼、成田に到着する予定です。
来週から出勤ということですので、よろしくお願いします。
「…」
メールを確認すると、自然と溜め息が出る。
携帯を机上に置き、たまっている書類を片付けるため印鑑を机から出している最中、頭をよぎったのは彼女と組んだ一年前のことだ。
***
「海(カイ)には、ロブが水月(ミヅキ)を刺した原因は、私にある、と言っておいてください。それ以上のことは、教えないでくださいね」
海が睡眠薬を飲んで自殺を図った後、運ばれた病院の駐車場でアイツはそう言った。
どうするのかね
一年前、取り調べ中に逃げ出した連続婦女殺害犯のロブは買い物途中の海と水月にナイフを向けた。その際、水月が海を庇いその刃の犠牲となった。海が自殺を図ったのは、それから間もなくのことだった。
ロブが日生の同居人であった二人を狙ったのは故意的なものだろう。だからと言って、彼を捕まえた日生に非があるとは思えない。にもかかわらず、アイツが病院で目覚めた海に告げた言葉は強烈だった。
「死に損なった気分はどう?でもまぁ、ロブを逃がしたのは私だから、恨まれても仕方ないけどね」
その後、取り乱した海がイスを投げる音が廊下にいる俺にまで聞こえてきた。慌てて室内を覗けば、ナースに取り押さえられている海としれっとしている日生の姿。一言で言うなら『修羅場』だ。
次の日には、日生に海の監督を命じたキャップが、その命を俺に変更してきた。
***
海は今、ウチにいる。相変わらず、あまり感情を表に出してはいないが、無事に仕事にも出ているようだし、日常生活にも異常は見られない。
日生が日本に来る、ということはそろそろ真実を告げてもいいだろう。
海、お前は誰にその命を守られていたのか知るべきだ
溜め息を吐いて、早次は書類を手に取った。
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