お世継ぎ騒動

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「このお方は煕子殿ではありませんよ」 「ええっ?!」 「何だと!」 椿と光綱が同時に声を上げた。 「顔もよく見ると違うけど、 話し方や雰囲気が違うと思った」 光太郎は、煕子からは独特の人離れした品を感じ取っていた。 一方目の前にいる芳子は、よく喋り人懐こい雰囲気だ。 そして煕子が自分を「素敵」だと言ったのに対し、 芳子は「見目麗しい」「眉目秀麗」と言った。 どちらも褒め言葉だが、あの煕子の雰囲気からは 仕事での活躍ぶりや容姿を指す褒め言葉が出てくるようには思えなかった。 「…大変申し訳ないことを致しました。 私は煕子の妹、芳子と申します」 観念したのか、芳子が苦しそうに口を開いた。 「何か訳があって君が来たの?」 「…実は姉の煕子が天然痘にかかってしまい… 完治はしたのですが顔に大きな痣が残ってしまった故、 このままでは光秀様が縁談を破綻にするかもしれぬと危惧した父の意向で 代わりに私が嫁ぐこととなったのです」 芳子の話を聞き、光綱は同情しながら言った。 「そうか。それは大変だったな…。 だが、芳子殿さえ良ければお主が光秀の妻となってくれて構わぬ」 光綱の言葉に、光太郎・芳子・椿 全員が口をぽかんと開けた。 「お主もとても美しく、更に光秀とも親しげに話しているのを見るに… お主の方がむしろ光秀の妻に相応しい気もするでな」 光綱の言葉に芳子はぱあっと顔を輝かせたが、 間髪入れずに光太郎はこう言った。 「いいえ、俺は約束通り煕子殿と結婚します」
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