お世継ぎ騒動

27/31
前へ
/865ページ
次へ
光太郎と煕子が結納してから二週間ほど過ぎた頃ーーー 「煕子殿、光秀との夜の方は順調か?」 光綱に呼び出された煕子は、思いがけない言葉を受け固まってしまった。 性の知識など無いに等しい煕子は、はじめ光綱が何を言わんとしているのかが分からなかったが、 話をするうちに ーーー早く世継ぎを産めーーー ということを言いたいのだと分かった。 「光秀からは手を出してこないのか?」 「…はい、夜は二組布団を敷き、会話などはせず眠りにつきます」 「困ったな…何のために正室を持ったというのだ」 「…申し訳ございません…」 「ああ、煕子殿を責めるわけではないのだ。 だが、いずれ世継ぎはこの世に残さねばならん。 今夜は煕子殿からそれとなく誘ってみてはくれないか?」 光綱から光太郎を誘うよう命じられ、 話しかけることすら緊張してままらないというのに一体どうしたらよいのかと煕子は頭を抱えた。 しかしこのままでは、自分は正室の座を解かれてしまうかもしれない。 明智家正室の座を失うことより、光太郎の元を離れることが辛く感じた煕子は、 その晩思い切って光太郎に声をかけた。 「あの…光秀様」 「どうした?」 光太郎はいつも通り布団を二組敷きながら返事をした。 「その、光秀様はお世継ぎを作るご予定などの見通しは 立てておりますでしょうかーーー」 煕子の口から言うにはそれが精一杯だった。 間違っても押し倒して行動で誘うなどということは煕子の選択肢の中には入ってはいなかった。 「…ああ…」 光太郎は曖昧な返事をした。 まずいな… そこまで考えていなかった。 まさかこんなにも早く子作りを迫られるとは… 信長を征伐し現代へ帰ることしか頭になかった光太郎は、返す言葉に迷っていた。 するとそれを察したのか、遠慮がちに煕子が言った。 「…光秀様は私のことを好きではないのでしょうか…」 その言葉に光太郎は、困ったような表情を見せた。 そして不安そうに返事を待つ煕子の元へ歩み寄り視線を合わせると、 静かな声でこう言った。 「ああ。すまない。 父の言いつけで見合い結婚した相手としか、思えない…」
/865ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1645人が本棚に入れています
本棚に追加