お世継ぎ騒動

31/31
1643人が本棚に入れています
本棚に追加
/865ページ
その頃光太郎は、羽柴家で懇親の宴に招かれていた。 煕子が帰りを待っていたここ数週間、 光太郎は羽柴家領地の賊鎮静のために尽力していたのだ。 光太郎にとって初めての任務はとても荷が重かったが、 これもいずれ信長を討つ為として尽力した。 そして無事鎮圧化が完了し、そのお礼にと秀吉から宴に招待されたのだ。 「それにしても、光秀殿は正室を迎えて間もないというのに 夜も帰れぬ日々を送らせて申し訳なんだ!」 「いえ、構いません。 これも全て秀吉殿の為ですから」 「口が上手いのう! まあ、飲め」 秀吉は光太郎になみなみと酒を注いだ。 「ところで、妻のいる生活はどうじゃ?」 「そうですね…まだ慣れないものですね」 「聞くところによれば奥方殿は大層な美人という話ではないか! 当然夜も燃え上がるのだろう?」 秀吉の言葉に光太郎はぴくりと反応した。 「…秀吉殿はご結婚はされておりますか?」 「ん?おお、俺か! 俺は未だに独り身だ」 突然話題をこちらに振られた秀吉は、思わぬ話の転換に驚いた。 「縁談などはないのですか?」 「ううむ…あるにはあるが、俺は親の選んだ者と見合いするというこの風潮に納得いかん。 何故好きな者同士結ばれようとしないのじゃ」 「秀吉殿には好きなお方がいらっしゃるのですか?」 酒の勢いも相まり、光太郎は何気ない気持ちで秀吉にそう投げかけた。 すると秀吉もまた酒が入っていた為か、思わぬ本音を明かした。 「ああ、いる! 俺は昔から一人の女を好いている」 「一途なんですね」 「一途と言うべきか…他のおなごを考えたことも無かっただけかもしれんがな。 しかしその娘を悲しませる者があれば、 俺は迷わずその輩を斬る覚悟だ!」 秀吉は酒に酔いながらも芯のある声ではっきりと言った。 「それだけ思ってもらえるその娘が羨ましいですね」 光太郎は本心からそう言ったが、これが後に大きな悲劇を生むことになるとは 全く予想もできなかったーーー
/865ページ

最初のコメントを投稿しよう!