侍女と正室

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羽柴家での宴会から戻り、大仕事を終えた光太郎は 久しぶりにゆっくりと屋敷で休んでいた。 いつの間にか寝てしまったのか、光太郎を目覚めさせたのは部屋の戸を叩く音だった。 「夕食を持って参りました」 光太郎が入るよう言うと、そろそろと中に入ってきたのは椿と煕子だった。 「今日は煕子殿も一緒か。珍しいな」 「実は…」 煕子は椿と共に夕食の器を並べた。 「椿殿に習い、二人で食事を作りました」 「煕子殿が?」 「日がな何もせずここに居させてもらうには忍びなかった故、 何かお役に立てることがあればと…」 「煕子様はさすが筋が良いのか、すぐにこつを掴み器用に調理されました! ぜひ、口にしてください」 煕子の後に椿がそう言葉添えをした。 「そう…じゃ、頂きます」 寝ぼけ眼をこすりながら光太郎が一口食べると、 その美味しさに顔をほころばせた。 「うん、美味しい」 「良かった…!」 光太郎の言葉に椿と煕子が同時にそう返した。 「いつも椿が作ってくれるのも美味しいし、 煕子殿と二人で作った今日の食事も少し違った味わいがあって癖になる。 どっちもとても美味しいよ」 光太郎がにっこり笑うと、煕子は嬉しい気持ちと共に少し切なさを覚えた。 私が初めてお会いした時も、このような素敵な笑顔だった。 けれどーーー結局私を愛してくれる故ではない。 この笑顔も作り物なのだろうか… 煕子はそんな疑問が残り、素直に喜べない自分がいた。 そこで煕子はある賭けに出ることにした。 その晩、うたた寝をした為か夜布団に入ってもしばらく世間話を続けてくれていた光太郎に対し、煕子は切り出してみた。 「光秀様…」 「どうした?」 「その…以前光秀様が申されましたように、 私に対し愛を持っておられないのは承知しております。 ただ…ただ」 煕子の真剣な声を聞いた光太郎は、何かを察したのか黙って次の言葉を待った。 「ーーー私は、明智家の皆様の為に力になりたいのです。 それ故、光秀様にこの身を…私を抱いて欲しいのです」
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