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笑顔でそう言う男に対し、光太郎は咄嗟に返した。
「ちょっ…何のことか分かりませんけど、俺早く会社に行かなければならないんです!」
「会社…とな?」
男は首を傾げている。
まさか…この人会社って言葉を知らないのか?
光太郎が落ち着いて男を観察すると、着ているのは着物、そして先程光を頭上に反射させていた頭はまげゆいの髪型。
「あの、随分と手の込んだコスプレですね…」
「コスプ…?お主、先程から不思議な言葉を使うな。
さては長旅で疲れたのだろう。
もう少ししとねで休むがよい」
男は光太郎を、今出たばかりの布団へ入るよう促してきた。
「ま、待ってください!
俺、会社…大事な場所へ行かなければならないんです。
俺がいないと進まない仕事があってーーー」
「何を言う。
今日からお主は明智家の新しい当主として私の世継ぎとなるのだ。
これ以上大事な仕事などあるものか」
「…はい?」
光太郎は、今起きている出来事が飲み込めず混乱した。
ただ、一つだけわかっていることがある。
「あなたはーーー明智家の親族の方ですか?」
自分と同じ苗字を名乗る男をまじまじと見ると、男も光太郎の顔をじっと見つめた。
「左様。
我こそは明智家当主光綱。
そしてお主は私の養子として今日からこの屋敷に住まうのだ」
明智光綱ーーー
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
「お主、名は何という」
「あ…明智光太郎ですけど」
「やはり明智の者か!
お主は今朝我が屋敷の庭先で倒れていたのだ。
門は厳重な警備をしておるし、何より刺客にしては服装や状況から考えて侵入者とも思えぬ。
そしてお主の優れた容姿…品のある明智家らしい顔立ちだ。
私は一目見て、お主こそ我が世継ぎとして参った天からの授かり物だと分かったぞ」
「俺、庭先で倒れていたんですか?」
道理で身体中痛いと…
って、そんなことより。
「俺が世継ぎってどういうことですか?
俺は亡くなった光一父さんの子で…」
「私が察するに、お主はこの時代の者ではないのだろう」
光綱の言葉を聞き、光太郎は愕然とする。
薄々感じつつあったが、どうもここは自分の知っている世界ではない。
夜いつも通り布団の中へ入ったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったんだ…
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