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「…すみませんが、ここはどこですか?」
「ここは明智家の城じゃ。
とはいえこの戦国の世、いつ信長の勢力に攻められるかーーー」
「え?信長?」
光太郎がはっと息を呑む。
「信長って…あの?」
「ああ、今武士の中でも最も力のある野心家、織田信長のことだ」
信じられないーーー
ということは、この光綱という男の言うことが正しければ、
俺が今いるのは戦国時代…
「あの、それで世継ぎというのは…」
「ーーー私は子を望めぬ身体でな。
とは言え兄弟の産んだ子もうつけばかり。
だが血筋の者でなければ信用ならん。
お主は明智家の血を継ぐ者なのだろう?」
「た…確かに俺は明智光秀の血を引いているとか何とか、
父さんから聞いたことはありますけど…」
「光秀…そのような名の者は聞いたことがないな。
だが、良い名じゃ。
お主、今日から光秀と名乗れ」
「え?!
ちょっと、何勝手なこと…」
先程から一方的に話を進める光綱に対し少し強めに言い返すと、
それまでにこやかだった光綱の顔が豹変した。
その冷たい視線に、光太郎は何も言えなくなった。
「…私が決めたからにはお主は光秀として生きるのだ。
それとも、その見慣れぬ服と髪で屋敷を飛び出し、浪人にでも襲われて死ぬつもりか?」
「…それは…でも、俺は俺の生きてきた時代で大切な仕事や家族を残してきているわけで…」
「それは明智家の存続よりも大切なことか」
「どっちがより大切なことかなんて比べようがないですけど、
俺には俺の生きてきた時間があるんです。
とにかく早く帰らないとーーー」
「どのようにして帰るつもりじゃ」
「…それ…は…」
光太郎は、自分がいつの間にここへ来たのかも分からなければ
帰り方も知る由がなかった。
言葉を失っていると、光綱が光太郎の手を取った。
「腹を決めることだな。
お主は明智家の次期当主、明智光秀として今日より我が養子となる。
そしていずれは織田信長を討つ、戦国の出世頭となるのだ!」
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