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それから、あれよあれよという間に光太郎は着物に着替えさせられ、屋敷の中を案内された。
「城下もいずれ案内するが…それはお主に礼儀作法を学ばせた後になるな。
何せ我が息子として民に顔見せをするのだ」
本気で俺を息子にするつもりなんだな…
光太郎は汗をたらりと流した。
「…あの、光秀という名前どうにかなりませんか。
せめて他の名前じゃ駄目なんですかね…」
「お主、私に逆らうのか?」
「逆らうというか…そもそも光秀って実在する人物ですよね?
あの、明智…光…綱の子…」
そう言った時、光太郎はようやく気がついた。
光綱という名をどこかで聞いたことがあるというのは、
以前家系図を見た時に明智光秀の父親として記されていた名だった。
しかし、その光綱は子はいないと言う。
つまり自分が口にした光秀という名をそのまま自分が授けられることとなり、
このまま織田信長を討伐すれば、
自分こそが歴史上悪名高い「裏切り者・明智光秀」として仕立て上げられてしまうのだ。
ーーー冗談じゃない!
俺があの明智光秀に?
じゃあ元々光秀というのは架空の人物で、
その正体はこの俺、明智光太郎ということになるのか?!
光太郎は自分に起きていることが信じられず目眩がした。
ふらりと倒れそうになった時、横を歩いていた光綱がさっと抱きかかえた。
「…今日からお主は大切な跡取りだ。
身体は大事にしなければな。
ともあれ、ここへ来て時間も経つし何か食べさせてやろう。
お主が住んでいた場所では何を食べておった?」
「…朝ならトーストと…それとコーヒーも」
「…聞いたことが無いな」
「あ、夕食は基本米を食べます。
それと適当な惣菜を…」
「おお、お主の時代も米は食べるのだな。
それを聞いて安心した。
まあ口に合わずとも慣れてもらうしか無いが…」
光綱はそう言うと、侍女らしき女性を呼びつけ、食事を作って持ってくるよう命令した。
侍女が部屋を出た後、光太郎は気になっていたことを口にしてみた。
「その…どうして俺がこの時代じゃないところから来たって知っているんですか?」
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