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「ああ、夢を見たのだ」
「夢…?」
「跡継ぎがいないことを気に病む日々を送っていたが、ここ最近立て続けに同じ夢を見てな。
それは仏が私の元へ来て、
案ずるな、未来のお主の子孫をここへ寄こそうと言うものだった。
その後占いもしたが、近い内に相応しい者が現れるという答えが出た」
「それが…俺のことだと?」
「お主のほかおるまい。
この窮地に私の前に現れた希望の光を失ってなるものか」
「お言葉ですが…」
光太郎は少し申し訳なさそうに切り出した。
「俺はただの会社員で特別な能力があるわけでもないし、
何より俺の時代に伝わる明智光秀という男は裏切り者として名を残しているんです。
そんな悪名高い人間を演じるのはーーー」
「演じるのではない、お主は既に光秀として明智家の人間となる」
「…明智家の人間なのは産まれた時からですけど…」
「ところで裏切るというのは誰を裏切ったという話なのだ?」
「織田信長です。
彼の忠実で有能な家臣として慕われていた光秀が、ある日信長が休養を取っていた寺に攻め入って自殺に追い込んだと言われているんです」
「そうか!歴史上ではお主が信長を討つのだな?!
やはり私が見込んだだけある!」
「ま、待ってください!
史実通りなら、光秀はその後で信長の部下だった秀吉に殺されてしまうんですよ!
信長の仇を取るために」
「なるほどな。
秀吉…と言うと羽柴の秀吉殿のことか?
…では、秀吉殿と手を組めば良い」
「へ?」
光綱の提案に光太郎はきょとんとして彼を見つめた。
「秀吉殿を信長征伐の仲間として共に戦えばよいのだ。
そうすれば秀吉殿の恨みを買うこともあるまい」
「でも、秀吉は信長を慕っているからこそ俺…じゃない、光秀を討ったのでは?」
「腹の中など誰もわからぬ。
それとも、お主は史実通りに生きてむざむざと殺されてもよいのか?」
誰のせいでこうなったと思ってるんだ。
光太郎はそんな言葉をぐっと飲み込んで答えた。
「…秀吉と仲良くなるに越したことはない…ですね」
「その通り。彼と手を組み一致団結すればあの信長を討つことも夢ではない。
まずは秀吉殿に取り入り、その後織田家にうまく入り込むのだ!」
かくして、光太郎は拒否することも出来ないままに明智家次期当主としての生活を始めることになった。
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