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「当たり前だ!
俺にとっては煕子は…一番大切な存在だ…」
「妬かせるねえ。
奥さんからは大して心を開いて貰えてないのにさ」
「それは…っ!」
光太郎はばっと立ち上がると、家康の前に歩いてきた。
殴られるかと一瞬思った家康だったが、そうではなかった。
「頼む、どうやったら煕子に心を開いて貰えるのか教えてくれ!」
光太郎は家康の前で深々と頭を下げた。
その行動に家康は訳が分からず、初めて自分のペースを崩されたことで思わず笑ってしまった。
「はっはっは…!
滑稽だなあ、顔上げれば?」
「…煕子が、あなたと楽しそうに話している姿を時折見かける。
どうすれば俺にもあんな顔を見せてくれるのか教えて欲しいんだ」
「楽しい、ねえ…」
家康は、自分に対しては怒った顔ばかり見せる煕子のことを思い出し、光太郎の言うことがおかしくてたまらなかった。
「俺は真剣だ!
信長様に煕子を取られたくない!
それに、下手したら命すら奪われかねない…。
どうしたらいいかあなたからもご教示願いたい!」
「それならいっそ、信長様を殺しちゃえば?」
唐突な家康の提案に
光太郎は目を見開いた。
「家康殿…?!」
「さっきも言ってたよね。
これまで信長様の為に働いてきたのに酷い仕打ちだって。
それならあんたが信長様を討って天下を取ればいい」
「ふざけた事を…!」
そう言いかけて、光太郎ははたと気がついた。
元々光綱からの頼みである信長を討つことの為に
これまでやってきたようなものである。
光綱からの命令であることに光太郎は反発心を持っていたが、
その光綱亡き後、自分がどう行動するも自由なのだということを改めて思い出した。
「でも…殺すなんて…」
「人を殺すのが怖い?」
「それは…そうだよ…
経験ないし、したいとも思わない」
「甘いな。
そんなんじゃ信長様どころか延暦寺の僧たちにも返り討ちにされちゃうよ」
「…家康殿は、人を殺すことに躊躇はないの?」
「無いね。隙を見せたら自分が殺されるんだから」
「そっか…」
「信長様は力はあるけどやり方が独断的で残虐。
逆にあんたは賢くて人望があるけど生き抜く為の覚悟が足りない。
どちらも自分に足りないものを補うべきだね」
家康がそう言ったところで、秀吉が部屋に戻ってきた。
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