延暦寺焼き討ち

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「席を立ったりして悪かったな。 話し合いは進んだか?」 「いや、そんなには…」 光太郎がそう濁すと、秀吉はどかっと座ってあぐらを掻いた。 「まあそんなことだろうと思うて! 今日のところは一先ずお開きとして、どれ、酒でも飲まんか!」 秀吉は、後ろ手に隠し持っていたとっくりを振って見せた。 「急に…随分機嫌が良いね」 家康が呆れたように言うと、 「まあのう! 仕事の話はさておき、一杯付き合え!」 と御猪口に酒を注ぎ家康に渡した。 「俺、酒は飲まない」 そう言って家康は断ろうとしたが、 「いいから飲め!」 と言って秀吉は無理矢理 注いだ酒を家康の口に運んだ。 ーーーすると、家康は少し酒を口に含んだ途端に苦しみだし、喉元を抑えた。 「ぐっ…う…っ!」 ただ事ではないと察した光太郎は、 「家康殿?!しっかり!」 と叫び、慌てて家康を担いで医者のいる部屋へと家康を連れて行った。 部屋に残された秀吉は、呆然と事の成り行きを見守りながらも 「俺の酒が飲めんとは…」 と悪態をつき、残った酒をぐいっと飲みほした。 医者の元へ運ばれた家康は、何度も薬を溶いた水で口をゆすいだ後で横にさせられた。 「毒…ではないですよね?」 光太郎が医者に心配そうに尋ねると、 「ああ、光秀殿は知らなかったのですね。 家康様は酒に耐性を持たないお身体で、 以前も信長様に勧められた酒を口にした途端に倒れてしまったのです。 以来このことを知る家臣は誰も家康殿に酒を勧めたりはしなかったのですがーーー」 と答えた。 「そうだったんですね…」 アルコールアレルギーか…。 身体に蕁麻疹が出来る人もいれば、下手をすれば呼吸困難になることもあると聞いたことがある。 「でも、家康殿が無事で良かった」 光太郎はほっと息を撫で下ろした。 秀吉は自分と同じ時期に屋敷へ越してきた為 きっと彼も家康の体質のことは知らなかったのだろう。 光太郎はそう思い、秀吉に悪意がないことを確認してそちらにも安堵した。 そんな光太郎の様子を苦しそうに呼吸をしながらも横目で見ていた家康は、 ま、煕子が惚れるのも納得だねーーー そう心の中で口にした。
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