大晦日の秘密

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『もしもし、日野ですが』 実家から出て生活を始めて、一年も経っていないのに、とても懐かしい気持ちを抱きながら、貴之は父の声を聞いていた。 感情を出すのが苦手な妻の父とは違い、割とおしゃべりで明るい父である。 男の割に少し高めの声を気にしているが、相変わらず高めの声であり、若々しい声であった。 「あ、父さん。俺、貴之だけど」 『おお、貴之か。元気にしてるか?』 「うん、元気にしてるよ」 いつものお決まりのあいさつを交わす。 そのあまりに変わりのない会話に、今があわただしい年の瀬だということを忘れてしまいそうだ。 貴之もさきほどまでは、妻の晴香と大掃除に明け暮れていたのだが、妻が隠していたあるものが見つかり、少し里心がついたのだろう。 「年越しは、お義母さんたちと一緒じゃダメかな」と言いだしたので、都合を聞こうと電話をかけているのだった。 晴香の実家に帰るには、遠方であるために遠すぎるというのもあったが、いろいろと複雑な事情を抱える晴香の実家にいきなり帰省というわけにはいかない。 家族の問題であるから、ゆっくり時間をかけて、と貴之は考えていた。
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