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ジンは困惑していた。
突然王都ディルクの兵士と名乗る使者が村にやって来た。
そしてジンを名指しで王都に来るようにと伝えてきたのだ。内容も知らせずにそれだけ伝えると使者はさっさと王都に戻っていった。
定められた農作物は何とか王都に納めた。
呼ばれる理由は何もないはず。
部屋の隅にある質素な椅子に腰掛けてジンは薄い窓から夜の空を見つめていた。
昼はまだ異常なくらい暑いが夜はすこしだけひんやりして気持ち良い。
コンコン。
部屋のドアをノックすると母親が顔を覗かせた。
「ジン、まだ眠らないの?」
母が優しく落ち着いた声で語りかけてきた。
「うん、何だか落ち着かなくて。もう少ししたら寝るよ」
「そうね、畑仕事で疲れてるはずだから、早く横になった方が良いわ」
母がそう言ってドアを閉めようとした時に、
「ねぇ、母さん。あのさ、」
言い掛けてジンは口を閉じた。
「どうしたの?」
ジンは首を横に降った。
「ううん、何でもない。母さんも早く休んで。お休み」
母はお休み、と言うとドアを静かに閉めた。
ジンが気にしている事は使者に呼ばれた事だけでは無かった。一緒にジンの横で使者の話しを聞いていた父がボソッと
「ついにこの日が来てしまったのか」
そう言ったのだ。
どういう意味だろうか?ジンは気になっていたが何故だか少し怖くて父に問いただす事が出来なかった。
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