1…失職

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「あー?えーっと、もしもし?聞こえとるんかね、これで」 電話に慣れていない、田舎に住むおばあちゃんからの着信。 優しいおばあちゃんの声に、すぐさま涙が浮かんだ。 「今晩ね、トシちゃん何時くらいにこっちに着くんかね?」 「もしもし?おばあちゃん?18時頃かな。おじさんに宜しく言っておいて」 今は私は電車とバスを乗り継いで、両親の生まれ育った長野の田舎の地へと向かっている。 「分かったよ。気をつけて来るんだよ」 「うん、ありがとう」 駅で手みあげを買って、重い荷物をバスへと乗せる時に、運転手さんに手伝ってもらって。 バスで隣り合わせになった、知らないおじさんがミカンを割って私にくれた。 「田舎のバスの道のりは長いで、まぁミカンでも食べとったら、すぐ着くわ」 「あ、ありがとうございます」 山道をどんどん登っていく。 一つの区間のバス停の距離が、さすが田舎だ。 長い。 畑ばっか。 田んぼばっか。 木々が生い茂り、家の後ろは密林。 どんどん、静かな町へと進んでいく。 ざわつく街は、確かにここよりも、はるかに都合がよくて便利。 でも…。
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