第1章

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その日の朝、尾上慎の目覚めは最悪だった。 ぴちゅぴちゅとスズメが鳴く庭先には、小春日和を思わせる陽の光がさしかかり、平和を絵に描いたような休日の到来を告げている。 布団の上で胡座を組んで、慎は頭を二度三度振った。 痛い。 振るのではなかった、頭痛ががんがんと彼を襲う。 ううう、と、ついうなり声が出る。 昨晩のことはよく覚えていない彼は、私立大学の教授を生業としている。 時は師走。同業者同士の会合に出席し、気の置けない者も、そうでない者も雑多に集まった。その後の歓談会では場所を移した。年末も近い。少し早めの忘年会だ。出席者は皆社会的にはそれなりの地位についている。が、酒が入るとどこまで紳士然たりえるか怪しい。一次会が二次会、三次会となり、いい歳しながら学生のようなノリで店をはしごした。 呂律や足元が危ない者が続出する中、平然としているのは、大学の同期で、職場の同僚でもある武幸宏教授だ。 彼の胃袋はアルコールというアルコールを消化吸収できないのではないかと疑いたくなるくらい酒にめっぽう強く、平気で鯨飲する。飲んでも飲まなくても陽気でパワフルだ。彼と一緒に飲む者は例外なく潰れる。だから彼と酒席を共にする者は相当気をつけなくてはいけない。 慎も長年の付き合いで良く知っているからその辺りの対処には長けているはずなのだが、難しい発表を済ませた彼は、無事完遂できた開放感も手伝って普段より飲んでしまった。武のペースにあわせてはいけないのは重々承知していながら、いろいろと羽目を外した。 記憶がすっぽ抜けるぐらいに。 朝、家を出る時、家人と約束をした。
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