第1章

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いい? 慎さん。 今日は慎一郎の誕生日よ。 集まりがあるのはわかってます。 でも、できることなら早く帰ってあげて。 無茶を言うなと笑って応じた。 「会合の後に忘年会を兼ねた懇親会が入っている。どちらも中座はできないよ。君も大人の付き合いは理解してくれているだろう」 「ええ、もちろん。無茶なお願いなのは承知してます」と彼女、茉莉花は応じる。 「でもね、わかってて言うの。私が物わかりがいい女じゃないのは、慎さんが良くご存知でしょう?」 確かに。 慎は、彼女とは何十・何百と約束をし、ことごとくを満足に守った試しがない。 その都度許してくれた茉莉花だからと、今回も甘く考えた。 もちろん、家には連絡は入れた。やはり遅くなると。彼女はわかったと言ってくれたではないか。立派な免罪符をもらったようなものだ。 さあ次、もう1軒! と店を変えていく武達に付き合い続け、結局その日のうちには中座できず、午前様となっていたところまでは覚えていたが、以降の記憶は途切れている。 へべれけになった慎を「仕方がないわね」と茉莉花は出迎えた……と思われた。 帰宅してからの時間は、延べにしておそらく数時間程度だ、満足に睡眠が取れているとは言えない。 しかし、外はスズメがちゅんちゅんとうるさく、陽射しはまぶしく彼の目を貫く。 それもそのはず、彼が寝ていたのは、寝室ではなく客間。陽当たりが恐ろしく良い部屋で、ご丁寧に太陽光が燦々と降り注ぐよう、カーテンも雨戸も閉めないで開け放たれたままだった。 茉莉花め。怒っているな。 ゆるゆると起き上がった彼は廊下を歩いた。
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