秘密

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 中野和子が塩谷学の訃報を聞かされたのは、 平年より一週間ほど梅雨入りが遅れると気象予報士が伝えた五月半ばのことだ。  満開のバラの花と大勢の幼い子供たちに囲まれ、 気象予報士が四角いテレビ画面の中から見せた笑顔が印象的だったので記憶に残る。  ああ、 そういえば昨日と、 対照的な出来事と繋がったのだ。  その年の冬は寒かったが、 派手な三寒四温を複数回繰り返した後に来た春はめっぽう温かく、 東京に咲いた桜は、 その開花時期を春の嵐が襲ったこともあり、 一週間持たずに潔くすべて消えている。
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