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「馬鹿」
その顔を隠すように抱きしめた。
「笑わなくていい」
「……うん」
「泣けない自分を責めるな」
「……でもね、どういう顔していいかわからないの」
「そんな時もある」
「でも、あたししかいないのに。お父さんのために泣いてあげられるの、あたししかいないのに――」
「ヒナはここにいるだけでいい」
強く抱きしめると、細い指が頼りなくヒロキの背中を引っかいた。
どんな言葉もただの気休めにしか過ぎない。
いや、気休めにすらなっていないかもしれない。
こんなとき、どうしてやればいいのか。
涙はストレス物質も一緒に流していくものらしい。
だから、涙することで人は悲しみから解放されるのかもしれない。
泣くことで現実を受け入れられるのかもしれない。
せめて泣ければいいのにな……?
ヒロキはそう心で呟いて、隣で眠る彼女の髪を優しく梳いた。
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