5368人が本棚に入れています
本棚に追加
数時間後、ヒナの手に残るのは真っ白な小さな箱だけだった。
「二宮さん、少しいいですか?」
そう声を掛けてきたのは総務部長の田中。
「もう、お帰りになられるんですよね?」
「あ、はい」
「それでしたら、出来るだけ書類のほうを――」
それからまた、書類にサインを。
「あと、寮の荷物を。処分するものは置いていただいても構いませんから」
そして、父親の暮らしていた部屋に通された。
寮と言うこともあって六畳一間の簡素な部屋。
物はそれほど多くない。
けれどどこからどう手をつけていいのか。
何が大切でどれが要らないものなのか。
「ヒナ?」
「あ」
立ち尽くすヒナを呼べば、彼女の髪が揺れる。
「うん、片づけだよね」
「無理するな。後で業者に頼んでも――」
「ううん、やる」
これが本当に最後だと分かってるから。
最初のコメントを投稿しよう!