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「……そうか、それは大変だったな」
神妙な木村先生の台詞にヒナはどういう表情をしていいのか迷いながら薄く笑う。
この木村先生はヒナの小学生の頃の担任で、この寺の住職兼ねていると二人に説明してくれた。
「それでね、先生」
そう言ってヒナがスイッと前に出したのは白い小さな箱。
「うち、仏壇もないしどうしていいのかわかんなくて。だから相談しようと思って」
木村先生はそれを持ち上げ大事そうに膝の上に置いた。
「ならうちで預かろう。一年経って良い日が決まったらお墓に入れてあげるといい」
「……はい」
「四十九日もうちで経を上げるから来なさい」
その声にも「はい」と答えて、ヒナは少しホッとした表情を見せた。
「しかし、早すぎるな」
まだ死を迎えるには早過ぎる年齢。
これも『寿命』なんだろうか?
それを聞くにも誰に聞けばいいのか。
答えがあったところで救われるはずも無いけれど。
「最後にお前の父親と会ったのは俺が中学の時だったかな?」
「えっ?」
突然の台詞に驚くと木村先生はニコリと笑った。
「俺の2コ上の先輩になるんだよ」
それからヒナの知らない父親の学生時代を教えてくれた。部活は写真部だったとか、彼女がいたらしいとか……。
その話をヒナは「そうなんだ」と笑みを浮かべて聞いていた。
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