Pray

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「君が『ヒロ君』か」 「……」 車に乗り込もうとしてかけられた一言にヒロキは振り返った。 ヒナはもう乗り込んでこの会話は聞こえないだろう。 「他の子供はここに行ったとかあそこに行ったとか、そんな話ばかりなのに、彼女だけは違っててね」 ヒナはどこにも連れて行ってもらえなかったから。 だから、ヒロキと出会った。 「それでも卑屈にならず真っ直ぐに育ったのは君のせいかもしれないね」 「……それじゃ、よろしくお願いします」 ヒロキがそう言って頭を下げると、木村先生は「勿論」と言って暖かい笑みを零した。 「あのね、小1と2年のときの担任でね、前は先生のお父さんが住職さんで……」 そんな話を聞きながら車を走らせる。 気分の問題なのだろう。 「……寝たか」 行きは酔っていた道も帰りはそんなそぶりも無く、高速に乗った頃には夢の住人。 話すことで不安も吐き出せたのかもしれない。 「寝てろ。夢も見ずに」 そうであって欲しいと願いながら、彼女の髪をそっと撫でた。 「……ん、あれ?」 不思議なもので、マンションの駐車場についた頃、大きな瞳はパチリと開いた。 「よく眠れたか?」 「あ、うん。……って、ごめん! 寝るつもりじゃ」 「いいんだよ。なんなら部屋まで抱いてってやろうか?」 「大丈夫、歩けるから」 そう言ってヒナは助手席のドアを開けて立ち上がった。
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