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部屋に入ってヒナが真っ直ぐに向かったのは自分の部屋。
隅に置かれたダンボールを真ん中にひっぱって、ヒナはそのまん前にストンと座った。
その箱を開けて中身を無造作に取りだす。
「なにやってんの?」
「ん? 先生と話してて。この中何があったかなぁって」
そういいながらヒナは父親の遺品に手を伸ばした。
傍から見たらガラクタばかりかもしれない。
読みかけの単行本、年季の入った万年筆、もうデジカメの時代だというのに古びたフィルムカメラ、そして大きな封筒からは付録で貰うようなアルバムが何冊も落ちた。
「あ」
その中には色あせた写真。
広げると幼い頃の自分があって――。
「……あたし、だ」
低学年だろうか?
赤い帽子を被って走るヒナの姿。
「運動会か?」
「そうみたい」
めくってもめくっても、写っているのはヒナだけ。
「あ、ごめん! ご飯の用意しなきゃね」
「いいから見てろよ」
そう言ったのにヒナは立ち上がって首を振る。
「大丈夫、見る時間はたくさんあるから」
そしてアルバムをまたダンボールの中に仕舞いこんだ。
確かに時間はある。
時間が解決してくれるのだろうか、
それしか無いのか……?
キッチンに向かうヒナの背中を見ながらヒロキは小さく息を吐いた。
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