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次の日も雨はまだ止まない。
それが『梅雨』といわれればそれまでだが、晴れて欲しいと思うのは何もヒロキばかりじゃ無いだろう。
「本気で行くのか?」
「うん、だっていつまでも休んでたら単位落としちゃうよ」
彼女の言うとおりで、親が亡くなったからと言ってお情けをくれるような大学では困ってしまう。
「なら、学校まで――」
「大丈夫!」
ヒロキの言葉を遮ってヒナが笑う。
「ヒロ君、全然お仕事と出来て無いでしょ?」
「いや、まぁ」
「ありがと、ずっとあたしに付き合ってくれて。もう大丈夫だから」
そんな彼女の言葉に不安を覚えてしまうのにヒナは笑う。
「じゃ、行ってきます!」
「コーヒー」
ヒナの挨拶をスルーしてそんな単語をヒロキが口にするものだから、ヒナは「ん?」と振り向いた。
「コーヒー入れろって言ってんの」
「えと、学校行かなきゃ」
電車で行くならもう家を出ないと間に合わない。
「入れたら車で送ってやる」
「……」
そんな彼の提案に大きな目をぱちくり。
「そしたら俺の目も覚めて仕事もはかどるし、ヒナも車で行けて雨に濡れない。一石二鳥だと思わね?」
「……ありがと」
「その台詞は学校について言え」
「――うん。すっごく美味しいコーヒー入れてあげる!」
「飲めないのに美味いとか分かるのか?」
「いつも美味しいでしょ?」
そんな返事にヒロキは苦笑して、煙草を手にベランダに出た。
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